機能美

家庭で大根オロシを毎日使う人はほとんどいないだろう。月に一度使えばいい方だ。使わない時はまず引き出しにしまわれてしまう道具。 でもこのオロシなら、見える場所に掛けて置きたくなる。見える場所にあるから焼魚に大根オロシを添えてみたくなる。 道具本来の目的を追求して生まれた色と曲線、曲面。これらが生み出す光と陰影の妙。美しいからこの道具を選ぶ。良いデザインにはそんな力がある。

機能美

鉄のフライパンを選ぶ理由はいろいろある。火力が十分に伝わり焼物がおいしくできる、鉄分の補給ができる、等々。
この鉄フライパンを選ぶ人はきっと見た目の美しさで選ぶのだと思う。本体のお皿の形状。ハンドルのかたち。他のフライパンとは何処か違う。 オーソドックスなカタチをしていながらも、嫌味がない。それらを美しいと感じて選んでくれる。




愛でる

花には不思議な力がある。彼らの美しさや華やかさ、香りが私たちの五感を刺激し、魅力させてくれる。 今朝、庭に咲いたばかりの花を一輪摘み、部屋に生ける。目で楽しみ、香りで楽しみ、季節を感じる。なんて贅沢な遊びだろう。

新潟は、花ばさみや剪定ばさみの産地として播州(兵庫)と並んで知られる。鍛造された鉄の伝統的な刃物産地だ。
さて、FD STYLE花はさみの場合。実は刃が片方にしか付いていない。2枚刃のハサミでは、刃が交差する時に切り口を余計に傷めてしまうのだが、 この片刃構造ならば、茎を炒めることなく軽やかに切れる。

またプラスチック製で軽いので長時間の作業でも負担が少ない。もちろん外で使うことを考慮し、金属部分は全てステンレス製。 手入れに気を使う必要がない。より身近に花を楽しむために施したカジュアルなデザイン。花のある暮らしは、日々が豊かになる。

拡げる

新しい価値を作ることに挑戦した道具。
一つ目は新しい使い方。本来の用途である「火ばさみ」の目的とは違う「ゴミ拾いトング」という価値を生み出したこと。
二つ目は売り方。従来のホームセンターでの販売ではなく、使ってくれる人に認知してもらい選んでもらうという売り方を見い出したこと。
その為に「僕らは地球のサポーター」というコンセプトを掲げ、横のつながりを生み出す事に挑戦した。

その全てに重要なファクターとして機能したのがデザイン。火ばさみではあり得ない、先端に樹脂キャップをはめる構造で保持力と安全性とファッション性を重視したデザイン。 同時に従来45センチ・60センチと分類していたところを、子ども用・大人用として分類し、コミュニティーにつなげる様々なツールをデザインする事で「ゴミ拾いトングマジップ」として認知してもらう事を目指した。

健康や環境問題に関心の高い人々のライフスタイルと、道具を作る人の関係とをもっとシンプルに結びつける事ができないか?と感じていた。なぜならそれらに関心の高い人々が年々増えつつあり、また作り手側も同じように考える人が増えているからだ。
しかしながら、果たしてその流れに見合ったふさわしい売り場づくりができているかというと、必ずしもそうではない場合が多いと感じる中で、「僕らは地球のサポーター」というコンセプトに共感するコミュニティーを拡げていけば、きっと新しい場を生み出せるのではないか?と始めたプロジェクトがBLUE HOME。
いわゆる大量生産市場とは別の、環境とのつながりを考えながらもメーカーもデザイナーもユーザーも良い関係を作れる新たな場の創造を目指すものだ。1.物を作って 2.伝えるという順番ではなく、1.伝える力を 2.ものづくりに生かそう、というデザインの試みでもある

つなぐ

プロダクトデザインというと「ゼロからモノをつくりあげる」、それだけと思っている人も少なくないが、既にあるモノをアレンジし、見え方を整理し、また別のものを結びつけて新たなモノにつくり換えていく、それもデザイン。







始まりはツバメテックの会長、神子島さんの軽い一言。「こんなのがあるんだけど、売れないかな?」。 数年前の湯たんぽブームで売れ残った直径16㎝の丸いステンレスの湯たんぽ。小さくて可愛いこの形なら、寝る時だけでなく、リビングで、オフィスで、アウトドアで使ってもらえるはず。
その為にはふさわしいカバーが必要だった。そこで五泉のニットメーカー、フォルツニットの斉藤さんに相談すると「ちょうど日東紡から、超長綿を紹介されました」と言う。 日東紡といえば、ふきんで有名な大手繊維メーカー。その工場が新潟にあった。工場に赴き、超長綿の「落ちワタ」に触れる。 その光沢と肌ざわりは、まさにこの湯たんぽを包むカバーにふさわしいと言えた。こうして素材の持つ肌触り、ウールに強いフォルツニットの特徴を活かしたデザインのカバーが仕上がった。

製糸、編み、ステンレス加工まで全てを雪国新潟で作った「湯たんぽ」。産地間コラボレーションを実現したのは「デザイン」。隣り合っていても、繋がりが薄く、閉塞的な地場産業間。デザインやデザイナーの存在が、産地間の垣根を取り払うチカラとなる事を実証したプロダクト。

地域色

デザイナーの役割の一つとして、製品プロデュースが普通になってきた。新潟でデザインしているからこそ、県外の人達とも連携することも増えてきた。大阪のセメントプロデュースデザインもその一つで、彼らを通じて知り合ったのが、なんと地元新潟県燕市のササゲ工業。面白い時代になってきた。

地方の製造メーカーがオリジナルで商品を販売するとなると、自社で製造から販売までを一貫して行うメーカーならば当たり前とも思えることが、簡単にはできなかったりもする。まず工業製品の場合、広い販路が必要である。また、単品の製品では情報発信力が弱くなる。さらに従来の流通に対する配慮も必要だ。
「FD STYLE」は、こうした製造メーカーの共同体でもある。製品の良し悪しだけでなく、ものづくりを理解し、売場をイメージして伝える技術がなければ売ることすら難しい。ただ単に美しいデザインと、美しくて「売れる」デザインとでは違うのだ。







新潟は日本酒の産地でもある。近年は海外へ販路を求めている。ならば外国人にも馴染みやすく、料理や飲み方、シチュエーションに合った酒器があってもいいのではないだろうか。選んだ素材はステンレス。日本酒を醸造するサーマルタンクはステンレス製であることからもステンレスと日本酒の相性は悪くない。洗練されたイメージを伝える美しい酒器。新潟という地域性と、製造メーカーの個性とをつなげる良い見本となった。 是非、様々な温度帯で楽しんでほしい。